義肢ってなーに?

義肢について

「義肢」は「義手」や「義足」の総称です。乳幼児から小児のお子さんの義肢は、先天性四肢形成不全や後天性の小児切断により失った手足の機能を補うことを目的に使用します。小児義肢には専門的な知識と経験が求められるため、先天性四肢形成不全や小児切断を専門とする医師、作業療法士、理学療法士、義肢装具士がチームとして対応します。またリハビリテーション治療に必要な機器の製作や開発にはリハビリテーションエンジニアが関わります。ここでは乳幼児から小児に適応する義手と義足の特徴について紹介します。

小児義手について

人の手と腕の構造は非常に複雑で、人や作業の数だけ手の機能があるともいわれています。現実的には人の手と腕の機能の全てを義手により代償することは不可能です。そのため個々の作業に適した機能を持った義手を選択して使うことになります。一般的に用いられている義手の種類は、「装飾用義手」「受動義手」「能動義手」「筋電義手」「作業用(運動用)義手」があります。これらの義手を作業内容に合わせて選択することにより上肢欠損・切断の子ども達の両手動作とその発達をサポートすることができます。

いつから?

「いつから義手を始めたらいいですか?」というのは、上肢欠損児の家族から受けることが多い質問です。0歳から 2歳までの早期に義手を始めると、義手の装着を受け入れやすい傾向があります。子どもの成長によりある程度まで手の機能の獲得が進むと、義手により補うことができる機能が不十分と感じることもあります。また患側の手の機能も発達するため、義手を使用しなくても、日常生活動作を健側の手の補助として上手に患側の手を参加させるようになります。そのような発達過程で義手を装着を始めると、患側の手が使いにくくなって、義手を使用する理由づけが難しくなることがあります。また、患側の手になにをさせたいかという目的を、本人がはっきりと自覚ができた時も、義手を作るのによいタイミングといえます。例えば、鉄棒や縄跳びに挑戦する年齢、また学校での授業で両手動作が必要とされるタイミングです。

義手を作り、装着したら自然と使えるようになるわけではありません。義手を上手に使うには作業療法士と一緒に練習することが必要です。練習内容は子どもの年齢に合わせた遊びや、日常生活や学校での課題に取り組みます。そうすることで日常生活で必要な両手動作を義手を使って上手に行えるようになります。その練習は作業療法士、医師、義肢装具士といった義手の専門家と一緒に考えていきます。また子どもは手の機能が発達することで、義肢に求める機能が変化します。そこで、さまざまな種類の義手を適材適所で使用できるようにすることが必要になってきます。上肢欠損の障害があっても、色々な工夫により様々なことに挑戦し、そして達成することで自己肯定感の育成や心身の健全な成長と発達に繋がります。小児義手はこの達成のための選択肢の一つとなります。

装飾用義手

装飾用義手

装飾用義手は人の手と腕の見た目を補うことを第一の目的とした義手です。物を把持する機能は低いですが、机の上の物を押さえることはできます。外観が良く軽量であることは利点です。その一方で、義手での安定した体重支持や荷重支持には向かず、把持機能が低いことから、両手動作を促すためには機能が不十分となることがあります。

受動義手

受動義手は乳幼児の早期から使用できる義手として海外の文献では古くから紹介のある義手です。近年になって本邦でも紹介されたことで使用される機会も増えました。この義手は健側の手で指の間に物を挿しこむことで把持させることができます。耐久性・耐水性が高く、許容範囲の装飾性があります。乳幼児から小児まで、さまざまな遊びから、学校での授業まで幅広く使用できる義手です。

受動義手
受動義手 子ども1
受動義手 子ども2

能動義手

能動義手は義手の手先具や肘継手の操作を随意的に行うことができる義手です。その操作は健常側上肢帯、体幹と患側の残存肢の動きを義手のケーブルやハーネスに伝えることで行います。切断レベルによっては比較的容易に義手の操作を行えることで、義手の操作が思い通りにならないことへのフラストレーションを抑えながら、義手の使用を始めることができます。その一方で、ケーブルやハーネスの装着を煩わしく感じることもあります。手先具によっては指先の形状が鋭角なタイプもあり、保育園や小学校での使用の際には、保育士や教員へ相談することで周囲の理解を促すことも大切です。

能動義手 子ども1
能動義手 子ども2

筋電義手

筋電義手は手先の開閉操作を小型のモーターを使い動かす義手で、その操作スイッチとして筋収縮時に発生する微電圧(筋電位)をセンサで拾うことで行います。義手の見た目も良く、義手の操作が頭の上や背中など上肢のあらゆるポジションで行うことができます。その一方で、操作の熟練には長期間の練習が必要です。精密機器であり、強い衝撃や、水場での使用により壊れることがあり、子どもの使用には注意が必要となる状況があることを知っておく必要があります。

筋電義手 子ども1
筋電義手

作業用(運動用)義手

作業用(運動用)義手は、子どもにおいては遊びや運動を目的に使用します。受動義手の手先具を運動用の手先具に交換することでも使用できます。手先具の種類は鉄棒用、マット運動用、縄跳び用、自転車用、ボール遊び用などさまざまです。運動に合わせた手先具を使うことで正しい身体の使い方で運動することができ、また運動を安全に行うことができます。上肢欠損・切断により避けていたり、諦めていた運動にチャレンジすることができます。

運動用義手 子ども1
運動用義手(鉄棒用 Hamo)
作業用義手 (マット用Tamtam)
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色んな種類の義肢があるね。 そして、 その子の活動に合わせて使う義肢は違うんだね!

小児義足について

義足の目的は下肢欠損・切断により失った身体機能を補うことで歩行することです。小児義足は成人の義足を小児のサイズに小さくすれば良いということではなく、子どもの成長への対応に加えて、子どもの日常生活や習慣、その他の合併症なども考慮する必要があります。そして「遊び」は子どもにとっては心身を発達させるための大切な「学び」です。義足が日常生活で得られる子どもの経験に制限をかけるものではなく、その経験をサポートする存在であることが大切になります。

いつから?

初回の義足の製作は、先天性の下肢欠損児であれば子どもがつかまり立ちを始める時期にあわせて装着を開始します。また初回の義足は子どもの発達の速度、合併症に対する治療や介入により、その時期は変化します。義足を使用することによりつかまり立ちを獲得し、それ以降の段階的な発達過程を経て独歩(一人歩き)の習得となります。このように、下肢欠損児は義足を使用することで歩行に至る運動機能を発達させ、さらに走ったり、スポーツへ参加したりと、より高度な運動機能を発達させていきます。子どもの成長により身長や体重の増加、また運動機能発達により義足の適合状態が常に変化しています。身体にあっていない義足は痛みの原因となったり、健側下肢や患側の残存肢への負荷を増やす要因となります。そのため義足は、子どもの成長に合わせて定期的に調整することで、身体に適切な状態で使用することが大切です。


子どもは義足を使い始めたら歩行に至る通常の発達過程を進んでいきます。経験的には特別な歩行練習なく、歩行まで習得します。ただし、リハビリテーション治療が必要ないというわけではありません。たとえば、残存肢に非対称性の大きな運動が観察されることがあります。また残存する関節に形成不全などの障害があることもあります。そのため、定期的に理学療法で正しい身体の使い方を身につけることが大切です。また運動機能に適した義足パーツを選択し、義足適合の調整を行うことが必要です。このように正しい身体の使い方の習得と、機能にあった義足適合を継続することは、残存する機能の負担を下げ、残存肢への二次障害のリスクを避けることにもなります。子どものその生涯を通して義足で歩くことを実現させることを見据えた、医療関連職種との関わりかたが非常に大切です。

小児義足 1
小児義足 2

防水用(水泳用)義足

日常生活で使用する義足は防水性が低く、水泳などの水場で使用するには適していまません。そのため保育園や幼稚園でのプール遊び、小学校の授業での水泳には防水用(水泳用)義足が必要となる場合があります。障害者総合支援法に申請し、その必要性が認められたら日常生活用義足と防水用(水泳用)義足の2本が支給されることになります。防水用(水泳用)義足は防水性や耐水性を考慮した構造になっています。その使用目的は、プールサイドまでの移動に使用する場合と、そのまま水中で歩いたり泳いだりするときに使用する場合に分かれます。水遊びや水泳などを行う環境やルールにより使用方法が決まることもありますが、重要なことは、さまざまなことを考慮し、どちらの使用方法も経験しておくことが大切です。

防水用義足 1
防水用義足 2

運動用の義足

義足を使用する子どもは、日常生活用の義足でも走ったり、スポーツしたりと、運動に制限はありません。また競技レベルでの運動を希望する場合には運動用の義足パーツを使用することもあります。通称「板バネ」と呼ばれる走行用義足足部は陸上競技で用いる義足足部です。パラリンピックなどでも注目されましたが、使用することで体を前方に押し出すための強い力を生み出すことができます。その一方で、踵に相当するパーツがなく、細かいステップ動作や、動きに対してブレーキをかけるような動作が必要な、バドミントンやバスケットボールなどの運動には不向きです。これら義足パーツは使用目的と、使うお子さんの身体機能に合わせた選択を行うことが大切です。

運動用義足 1
運動用義足 2
運動用義足 3

公的制度と入手方法

義肢の製作には病院の診察が必要です。特に小児義肢には専門的な知識と経験が必要となり、先天性四肢形成不全や小児切断を専門とする医師、作業療法士、理学療法士、義肢装具士が揃う病院の診察を受けることが望ましいと思われます。診察では個々の子どもに適した義肢の種類やデザインの相談のほかに、義肢を使いこなすための身体運動や、日常生活に必要な機能について専門家の間で検討します。お子さんとご家族が義肢の製作を希望された場合は、医師が義肢の処方を行い、実際に製作を開始することになります。

一般的には義肢を製作する場合には「訓練用仮義肢」から「本義肢」という順序になります。これについてはこの後説明します。しかしながら、小児義肢の場合には通常の手続きが滞ることがあります。これは申請を受ける側に小児義肢の経験がないことが原因となることがあります。そのため、義肢製作時には、事前に申請手続きについて担当の義肢装具士、医師、セラピストに必ず相談してください。

訓練用仮義肢

義肢の製作にかかる費用については公的制度が適応されます。初めて製作する義肢は「訓練用仮義肢」と呼ばれ、ご加入の健康保険が適応されます。ただし適応の可否の判断についてはご加入の保健組合の判断となりますので、事前に保健組合に確認しておくと安心です。初めに義肢製作に関わった全額費用を義肢製作会社に支払い後に、ご加入の保健組合へ「療養費の支給申請手続き」を行うことで、保健組合の定める基準枠により70%の返還金を受けることになります。また「乳幼児等・子ども医療費助成制度」も受けることができますので、詳細については担当の義肢装具士、医師、理学療法士・作業療法士にご相談ください。

本義肢

「訓練用仮義肢」以降の義肢は「本義肢」と呼ばれます。本義肢は障害者総合支援法の補装具費支給制度を利用して義肢の購入費の支給を受けることができます。また支給には事前に身体障害者手帳の取得が必要です。申請先はお住まいの市区町村の福祉事務所になります。製作する際の注意点として、申請が受理されたあとでの義肢製作開始となります。この順番が変わると申請が却下されることがあります。また義肢の修理などに必要な費用についても申請することができます(訓練用仮義肢の修理は全額自費になります)。詳細については事前に必ず担当の義肢装具士、医師、理学療法士・作業療法士にご相談ください。

義肢の一部は公的支援制度で支給されないものがあります。たとえば、運動用やレクリエーション用の義肢や義肢パーツです。公的支援制度での支給は難しいですが、児童の発達には欠かせない活動に役立ちますので、利用を希望される方が入手できるよう当法人(一般社団法人ハビリスジャパン)では一部の義肢の運動用パーツのレンタルを行っています。