ボイス

# ボイス

”自分の可能性を広げよう”。パラアスリートが子ども達に伝えたい、挑戦するということ。/ Habilis Voice #02

2022-11-27
あわけんVoice_top

Habilis Japanは「すべての子どもたちが、自分らしさに誇りを持ち、成長できる社会」の実現を目指して活動を行っています。

Habilis Voice 第2回は、パラテコンドー日本代表強化指定選手として、日揮パラレルテクノロジーズ(株)の副社長として、そしてHabilis Japanの講師として、様々な領域で活躍されている阿渡健太さんにお話を伺いました。

爽やかな笑顔と熱い眼差しが印象的な阿渡さんのキーワードは”挑戦”。
子ども達に伝えたい、挑戦することの大切さ、そして自分にしかできないことで社会を変革したい、という想いを語っていただきました。

■阿渡健太さんのプロフィール:
1986年生まれ。生まれつき両上肢(両側の肘より先)に障害を持つ。日揮ホールディングス株式会社所属 兼 日揮パラレルテクノロジーズ株式会社 副社長。パラテコンドー日本代表強化指定選手。趣味はサッカー・読書・銭湯。座右の銘は「目標がその日その日を支配する」。

子ども達に伝えたい、挑戦するということ。

Habilis Japanとの出会いについて教えてください。

パラテコンドー日本代表にドクターとして帯同していた、Habilis Japan理事の藤原先生から「座談会に出てもらえないか?」と声をかけてもらったことが最初のきっかけです。そこでHabilis Japanの存在を知りました。これまで健常者の子ども達に話をする機会はありましたが、自分と同じような障害を持っている子ども達に話をする機会はありませんでした。

現在はHabilis Japanにてどのような活動をしていますか。

オンラインでのパラテコンドー教室を月1回実施しています。
2020年に新型コロナウイルスが流行してから「何か自分にできることはないか」と考えはじめました。そこで「オンラインで子ども達と繋がりたい」×「自分にできることはテコンドー」を組み合わせて、Habilis Japan事務局の野口さんに「オンラインでテコンドー教室をやってみたい」と提案し、実現に至りました。参加者からは高評価をいただいたので、現在も続けています。

(写真:テコンドー教室の様子)

他にもYouTubeでの発信等、様々な活動をされていますね。活動の原動力は何ですか。

子ども達が挑戦する気持ちを持ってほしい、という想いです。
私は子ども達にいつも、「色々なことに挑戦して、自分の可能性を広げよう」と伝えています。まずは挑戦して、嫌なら辞めればいいし、楽しいなら続ける、それだけです。

健常者の中で生活していると、健常者の基準で物事に取り組もうと考えがちです。例えば、学校の授業が良い例ですね。私の場合、体育や音楽、裁縫の授業は特に苦痛でした。例えば、縄跳びの授業では「両手で縄を掴むことができないので、どうせできない」と思っていました。このような体験が増えていくと自信を失ってしまう。そして何をする時でも「自分はどうせできない」と、いつの間にか思考が停止してしまうのです。

でも必ずしも健常者のやり方に合わせる必要はなく、違う方法でできれば良いんです。先ほどの縄跳びの例で言えば、当時担任だった先生が、僕の腕に縄を巻きつけるように工夫してくれて、僕は縄跳びを飛ぶことができました。「できないと思っていたことが、工夫によってできた」瞬間で、とても嬉しかったことを今でも鮮明に覚えています。

一人でも多くの子ども達にこのような体験をしてもらいたい、という気持ちが大きいです。小さな成功体験を積んでいくと、今度は自分自身で「どう工夫すればできるかな?」と自然に考えるようになり、ポジティブ思考のサイクルに入っていきます。その1つのきっかけがテコンドーであれば嬉しいです。

(写真:阿渡さんのYoutubeのサムネイル画像)

自分でしかできないことで、社会を変えていく挑戦。

阿渡さんは凄く前向きな印象を受けます。何か象徴的なエピソードはありますか。

十代の頃、勉強もスポーツも平均以上はできたので、健常者に対して、「なんで手があるのにできないの?」と偏った考え方をする時期がありました。心の奥底には、健常者には絶対に負けたくないという強い想いがありましたね。今思えばすごく性格の悪い少年でした(笑)。でもそれくらい、負けず嫌いな性格なんです。

高校生の時、友人はアルバイトをして、自分の稼いだお金で免許をとってバイクを買ったり、サッカーシューズを買ったりしていました。私はどんなに応募をしても、見た目で判断されて、落とされました。本当に悔しかったですね。

そこで、「結果で示すしかない」と考えて、「1か月無給で働くから働きぶりを見てくれ」と申し出ました。必死に働いて、最終的に採用してもらうことができました。
その時、手や足に障害がある人も健常者と変わらないことを皆知らないだけなんだ、と気づきました。偏った見方をする社会を変えたい、と思うようになったきっかけの1つです。

2021年には、ご自身の発意で会社を設立されていますよね。今はどのようなことをされていますか。

IT業務に特化した障害者雇用に取り組んでいます。
2020年の東京パラリンピック選考会で負けた後、仕事のキャリアに軸足を置くため引退を考えていました。同時期に社内で障害者雇用の課題を議論する機会がありました。自分自身、就職活動で苦労した経験もあり、社会を変える挑戦をしたいと思っていました。そこで現在の社長と二人三脚で企画書を作り親会社に提案し、会社設立に至りました。

障害者の処遇は最低賃金、業務内容も軽作業、が一般的です。果たしてそれでよいのか?という疑問を常に持っていました。個人差はあるものの、障害者の中には、特定の仕事であれば秀でた能力を持つ人材が沢山います。ただし、通勤が苦手、コミュニケーションが苦手、朝は苦手など、障害特性は様々です。このような障害を持っていても働きやすい人事制度を整えることで、障害者の労働環境改善に取り組めると感じています。その人たちの能力を最大限に活かし、「全ての人が対等に働ける社会を作る」ことは、非常に意義のあることだと考えています。

今後の阿渡さんの展望を教えてください。

自分の影響力を高めたうえで、社会の当たり前を変えていきたいです。具体的には、社会に対して「障害があっても、仕組みやルールを変えていけば、誰もが対等に生きられる」ということを発信していきたいです。

また、これは抽象的な表現ですが、私のような障害者が街を歩いていても全く違和感のない世の中にしていきたいです。今は街を歩けば、「手が無い・・」と悪口を言われたり、ジロジロ見られます。そんな違和感を無くしていきたいですね。大多数の方は、私たちのことを知らないだけなので、自分が発信することで、そのギャップを少しずつ埋めていきたいと思っています。
必ずしも障害を持つ方全員が、僕のように発信に対して抵抗感が無いわけではありません。だからこそ、僕にしかできないことをやっていく、という気持ちです。

Habilis Japanと一緒に挑戦したいことはありますか。

子ども達に挑戦する機会を与えたいです。現在のパラテコンドー教室だけではなく、水泳教室やeスポーツ教室のように、選択肢を増やしていきたいですね。

また、ご家族に対しては、相談できる場を提供したいです。子どもが大きくなるにつれて、悩みは増えていくので、自分たちの経験を踏まえて少しでも力になれればと思っています。

最後に一言、子ども達にメッセージをお願いします。

好きなことを一生懸命やってほしいです。
そして何度も言いますが、「色々なことに挑戦して、自分の可能性を広げること」これが、私が一番伝えたいことです。これは障害の有無に関係なく、全ての人に共通することかもしれませんね。


阿渡健太さん、ありがとうございました。

関連リンク: